クリニック・歯科医院の電気代と停電対策
公開:2026年9月14日
クリニックや歯科医院にとって、電気代は固定費の一つです。 ただ、医療機関には一般の店舗と決定的に違う点があります。 停電が「売上の損失」ではなく「診療の中断」になることです。
この記事では、医療機関の電気代の特徴を整理したうえで、停電への備えとしての非常用電源を比較します。 あわせて、蓄電池で賄える範囲と、賄えない範囲をはっきり書きます。
この記事の前提
ここで想定しているのは、低圧契約の無床の診療所・歯科医院です。
契約電力が50kW以上の高圧契約の医療機関や、入院設備のある施設、生命維持に関わる機器を使う施設は、
専門の設備業者による非常用発電設備の検討が必要で、この記事の範囲を超えます。
医療機関の電気代の特徴
診療科によって違いはありますが、電気を使っている主なものは次のとおりです。
① 空調
待合室と診察室、処置室。体調の悪い方が来院されるため、室温を快適に保つことが一般の店舗以上に求められます。換気の頻度が高いぶん、空調の負担も増えます。
② 医療機器
検査機器、画像診断装置、滅菌器(オートクレーブ)、歯科ユニット。機器の種類と台数で、電気代は大きく変わります。
③ 保管設備
薬剤やワクチンを保管する冷蔵庫。温度管理が必要な物品は、停電時の影響がそのまま損失と安全性の問題になります。
④ 事務・情報機器
電子カルテ、レセプトコンピュータ、予約システム、照明。電子カルテが止まると、診療そのものが進められない医院も少なくありません。
歯科医院で特に注意したい「動力」
事業所の電気には、照明やコンセントに使う「電灯」(単相)と、 業務用の機械を動かす「動力」(三相200V・低圧電力)の2種類があります。
歯科医院では、コンプレッサーやバキューム、業務用エアコンが動力で引かれていることが少なくありません。 そして、ここで扱う蓄電池が対応するのは電灯の分だけです。 動力で動いている機器は、電気代の削減の対象にも、停電時のバックアップの対象にもなりません。
検針票が「電灯」と「動力」の2枚に分かれていたら、まずそれぞれの金額を確認してください。
停電時に動かしたい機器が動力で動いている場合、蓄電池は備えになりません。
停電で診療が止まるということ
停電したとき、医療機関で起きることを整理しておきます。
- 電子カルテ・レセコンが使えない。患者さんの情報を確認できず、会計もできません
- 処置の途中で機器が止まる。歯科治療や処置の最中であれば、安全に中断する対応が必要になります
- 薬剤・ワクチンの温度管理が途切れる。停電が長引けば、廃棄の判断を迫られます
- 予約の患者さんを振り替えることになる。連絡の手間と、診療機会の損失が発生します
特に電子カルテのデータについては、予期せず電源が落ちることによる影響も考える必要があります。 サーバーやパソコンには、蓄電池とは別にUPS(無停電電源装置)を用意しておくのが一般的な備えです。
非常用電源の選択肢を比べる
| 種類 | 向いている用途 | 注意点 |
|---|---|---|
| UPS 無停電電源装置 |
停電の瞬間にサーバーやパソコンを途切れさせない。安全にシャットダウンする時間を稼ぐ | 持続時間は数分〜数十分程度が一般的。長時間の停電には対応できません |
| ポータブル電源 | 照明、スマホ、小型の機器を一時的に動かす | 容量が小さく、医療機器や空調を長時間動かすのは難しい |
| 発電機 | 燃料があれば長時間電気を供給できる | 屋外設置が必要、騒音・排気、燃料の保管と定期的な点検が必要。都市部の医院では置き場所が課題 |
| 定置型蓄電池 | 停電時に照明・空調・電灯系の機器を数時間単位で動かす。平常時は電気代の削減にも使える | 動力の機器は対象外。何をどれだけ動かすかで必要な容量が変わる |
現実的には、サーバーやカルテ端末はUPSで瞬断を防ぎ、照明・空調・保管庫は蓄電池で数時間をつなぐ という組み合わせが、低圧契約の診療所では検討しやすい形です。
蓄電池で賄える範囲
定置型の蓄電池は、平常時にも役割があります。 単価の安い深夜の電気を蓄えておき、診療時間中にその電気を使うことで、電気を買う単価を下げられます。
東京電力エリアの例では、従量電灯Bの第2段階が36.40円/kWh、スマートライフS/Lの夜間(1時〜6時)が27.86円/kWhで、 1kWhあたり8.54円の差があります(2026年5月時点)。太陽光パネルは必要ありません。
合う可能性が高い医院
- 低圧契約で、電灯契約の電気代が月3万円を超えている
- 停電時に動かしたい機器が、電灯(単相)で動いている
- 薬剤・ワクチンなど、温度管理が必要な保管物がある
- 停電しやすい地域にある、または地域の拠点として診療を続けたい
合わない可能性が高い医院
- 停電時に動かしたい機器の多くが動力で動いている
- 高圧契約の医療機関(専門業者による非常用発電設備の検討が必要です)
- 生命維持に関わる機器のバックアップが目的(蓄電池だけに頼るべきではありません)
- 電灯の電気代が月1万円前後で、停電対策の必要性も低い
まとめ:まず「止まって困るもの」の一覧を作る
医療機関の停電対策は、何が止まると困るのかを具体的に書き出すところから始まります。 電子カルテ、保管庫、照明、空調、処置に使う機器。 そのうえで、それぞれが電灯で動いているのか、動力で動いているのかを確認します。
電灯で動く機器が中心なら、蓄電池は停電対策と電気代の削減を兼ねる選択肢になります。 動力の機器が中心なら、別の手段を考えるほうが確実です。 検針票と、止まって困る機器のリスト。この2つがあれば、判断に必要な材料はそろいます。